第75回全国大会および2021-2025年度の総括

前会長 中村唯史
2025年11月2日
 

 2025年度の日本ロシア文学会第75回全国大会は、10月25日・26日の両日、東京大学駒場キャンパスにおいて、対面形式で開催されました。また、大会前日の10月24日には、「ロシア語という言語を考える―その言語的特徴と歴史、社会との関わりをめぐって―」が行われ、約80名の参加者がロシア語研究やロシア語をめぐる状況の現在についての極めて充実した諸報告に触れました。その後の質問と応答も感銘深いものでした。

 25日・26日の本大会では、国際枠5名を含めて29の個人発表と、2つのワークショップが行われました。全国大会の報告数は、新型コロナ・ウイルス禍の影響で減少した後、オンライン開催からハイブリッド開催を経て対面開催に復した後も微増傾向に留まってきましたが、本年は顕著に増加し、大会プログラムは2日目の午後にまで及びました。私はすべてのブロックに参加できたわけではありませんが、いずれも30名前後の参加者があり、報告も質疑応答も多くが学術的で充実したものでした。特にワークショップ「プーチン体制下におけるロシア文化」には90名ほどが出席し、現在の状況を踏まえての切迫した諸報告を聞き、真摯にディスカッションに参加していました。また、第11回日本ロシア文学会大賞を受賞された沼野恭子先生の公開記念講演「「あなたを好きになってしまった」――時空を超える〈応答〉としての文学」には学会内外から160名もの方々が集い、それ自体深く文学的だったご講演に熱心に聴き入っていました。沼野先生の受賞記念講演は、今後YouTubeでも公開される由です。

 このように第75回全国大会が成功裏に終えられたことに対して、充実した企画と円滑な運営に多大のご尽力をいただいた鳥山祐介さんを委員長とする大会実行委員会の皆さん、開催校のスタッフの皆さんに心より感謝申し上げます。

 25日の総会では、会長選挙が実施されました。総会前の第一次投票は初の試みとして電子投票を導入、総会での第二次、第三次投票は記入投票となりましたが、秋山真一さんを委員長とする選挙管理委員会のご尽力で円滑に進行し、野中進さんが新会長として選出されました。

 今大会をもって私の4年間の会長任期は終了しました。私の任期は、当時なおも続いていた新型コロナ禍の影響下に始まりましたが、支部体制の再編、新ホームページへの移行とそれに伴う学会業務の一部電子化といった、三谷惠子前会長時代から引き継いだ課題を実現することができました。その一方、2022年2月のロシアの政府と軍によるウクライナ侵攻とその後の経緯は、学会と各学会員の動向に大きく影を投げかけてきました。戦争という事態を受けての本学会としての基本的な姿勢は、「ロシア軍のウクライナ侵攻への抗議声明」(https://yaar.jpn.org/?p=101)、「ロシアの言葉・文学・文化を今、あるいはこれから学ぶ皆さんへ」(https://yaar.jpn.org/?p=94)、「国際学術交流に関する執行部の見解」(https://yaar.jpn.org/?p=1345)の3文書に基づいてきましたので、会員の皆さんは必要な際にはぜひこれらをご参照ください。

 この4年間の事態からは、本学会の目的の再確認・再定義が必要であることもまた認識され、2024年全国総会に会則と諸内規の全面的な改訂を提案して、これが承認されましたが、このような改訂も時代の推移、趨勢や状況の変化の然らしめるところだったと考えております。

 この4年間は、当学会が外部に向けて積極的に発信するのに一定の困難を伴う時期でしたが、若手企画賞公開ワークショップの実施、学振賞・育志賞・学会賞等の受賞者による受賞記念講演録画の公開配信の試みなどを推進しました。今後これらの試みがさらに定着するとともに、状況を慎重に見極めながら、本学会の社会連携や国際交流がより一層活性化していくことを願ってやみません。

 2025年は、日本ロシア文学会が活動を開始してから75周年に当たります。そのような節目の年に私が会長職を全うできたことは単なる偶然ですが、50周年の際に刊行された『日本人とロシア語―ロシア語教育の歴史』(ナウカ社、2000年)に続く、充実した内容と瀟洒な装幀の『Curricula Vitae―日本ロシア文学会75周年記念インタビュー集』の刊行に立ち会えたのは、光栄なことでした。坂庭淳史さんを座長とする「日本ロシア文学会75周年記念事業ワーキンググループ」の皆さん、インタビューにご協力いただいた学会内外の皆さん、そして何よりインタビューに応えてくださった先生がたに心よりの敬意と感謝を表します。なお、この本は学会ホームページ上でも無料公開されていることを申し添えます(https://yaar.jpn.org/wp-content/uploads/2025/10/CurriculaVitae.pdf) 。

 いつも感じてきたことですが、日本ロシア文学会では、多くの会員のかたが煩瑣な業務、複雑な案件、表面に出ない目立たない仕事などを淡々と引き受け、的確にこなしてくださっています。そういう方々があまりに多いので、ひとりひとりのお名前をここに列挙することはできませんが、本当にありがとうございました。とりわけこの4年間、学会運営の日常業務をご一緒した歴代の副会長と事務局の方々、ときに微妙な問題に関して議論を尽くした理事会構成員の皆さまがたに深くお礼を申し上げます。

 4年間、多くのお力添えをいただき、まことにありがとうございました。日本ロシア文学会がますます活動の場を広げていくよう、野中進会長をはじめとする新体制に対する皆さまのより一層のご協力をお願いして筆を擱きます。