中村唯史 新会長よりご挨拶


日本ロシア文学会会員のみなさま、こんにちは。令和3年10月30日筑波大学・オンライン方式で開催された日本ロシア文学会総会で会長に選出されました中村唯史です。長い伝統を持つ本学会の会長という大役を思いがけなく務めることとなり、責任の重さを痛感しています。

学会の活動の基本は、学会員の交流と意見・情報の交換・発信の場であり続けることでしょう。学会誌の発行と全国研究発表大会が活動の軸ですが、日本ロシア文学会ではそのいずれも、歴代の学会誌編集委員会、大会組織委員会と大会実行委員会のご尽力のおかげで充実しています。個々の学会員の著書や活動、種々の企画の情報が掲載、周知されるホームページも、広報委員会のご創意でまもなく新しくなる予定です。私たちの学会は現在、その役割を果たしていると思います。

その一方で、ロシアの言語・文学・文化研究をめぐる状況は、しだいに困難の度を増しています。メディア環境が激変するなかで近代に文学が帯びていた権威は薄れ、グローバル化の進行下で英語以外の言語に対する需要と関心は低下しています。「稼ぐ」ことが大学と研究機関に公式に求められるなかで、人文科学に対する政府や社会の支援は特にわが国で急速な減少傾向にあり、概して研究をめぐる環境は厳しいものとなりつつあります。その影響は地方に顕著にあらわれ、ロシア関係の教育体制の縮小・廃止や常勤職の削減なども見られます。

三谷惠子前会長は、歴代会長の後を承けて4年前に就任されてから、執行部・事務局、各種委員会、会員のみなさまの協力のもと、学会の通常活動の効率化と活性化を図るとともに、とりわけ若手研究者の育成と国際交流の推進、研究成果の社会への発信など、学会を「開く」ことに力を傾注されてきました。三谷会長のもと、執行部・事務局・社会連携委員会、関係各位の協力によって実現した「若手ワークショップ」や、「日本ロシア文学会主催公開シンポジウム」はその一環でした。

残念ながら、昨年来の新型コロナ・ウィルス禍の影響で、これらの新しい試みは小休止を余儀なくされました。全国研究発表大会も2年続けて全面オンラインによる開催となり、国際交流も人的な面ではいくらか停滞せざるを得ませんでした。


しかし、三谷会長を中心に推進されてきた、学会を「開く」試みの重要性には、変わりありません。状況を注視しつつ、前会長の路線を引き継ぎ、しだいに種々のプロジェクトを再開していく所存です。その際には、新型コロナ・ウィルス禍という状況下で当学会でも全国大会・各支部大会開催校、諸企画の関係者を中心にノウハウが培われた交流と参加の多様なあり方を、新たな可能性と捉え、活用させていただきたいと考えています。

会員数の地域差が顕著になり、現行の支部体制の再検討を開始するなど、日本ロシア文学会をめぐる状況は必ずしも順風満帆とは言えませんが、言語、文学、思想、文化という「大きな時間」のなかにあるものに向き合っている私たちは、社会への貢献を考えるときにも目の前の状況だけでなく、長期的な展望と広い視野に立って各自の主題を追究していきたいものです。


私は人格的にも能力の面でも、自分が会長職に適格であるとは到底思うことができませんが、幸いにして、経験豊かな野中進さんと前田和泉さんのお二人に副会長として執行部に入っていただくことになりました。従来から学会運営の実務を担ってくださっている安達大輔さん、秋山真一さんのお二人の事務局、また各種委員会の方々にもご助力いただいて、日本ロシア文学会が円滑に機能し、学会員がのびのびと意見を交わし、発信できる場の確保に努めていきたいと思います。みなさまには、ご指導、ご協力、ご提言のほど、どうぞよろしくお願いいたします。

2021年11月  中村唯史