第74回定例総会・研究発表会と 2023/2024年度の学会をふりかえって
日本ロシア文学会会長 中村唯史
2024年11月19日
日本ロシア文学会第74回定例総会・研究発表会は、2024年10月26日-27日の2日間、創価大学(東京都八王子市)で開催され、無事終了しました。また、本大会前夜の10月25日には、約80名の参加を得たプレシンポジウムが成功裏に開催されました。
25件の報告と1件のワークショップが行われた第74回研究発表会は、質量ともに極めて充実したものでした。2日間の延べ人数で、約250名の出席者があったとのご報告をいただいています。私はすべてのセクションに参加できたわけではありませんが、どの会場にも30-50名ほどの出席者が集い、活発な報告と質疑応答が行われていました。多くのセクションで、生産的で学術的に高水準の議論が交わされたのは喜ばしいことです。第1日目の総会後に開催された懇親会には約90名の方が参加して、談笑や議論の輪が広がりましたが、その冒頭では、長らく日本のロシア・スラヴ人文学研究を牽引されてきた世代から、栗原成郎先生に乾杯の辞をいただきました。
今年度の学会大賞受賞者である亀山郁夫先生の記念講演「「黙過」と想像力―ロシア文学と60年を回顧する―」には、学会内外合わせて約200名の方が集いました。この講演の模様は現在YouTubeで公開され、当学会のホームページからも観ることができます(https://yaar.jpn.org/?p=2762)。亀山先生がロシアの文学や思想や現実と格闘してきたご自身の半生を振り返られ、会場に大きな感銘を与えたご講演を、ウェブを通しても、皆さんにぜひご覧いただきたいと思います。
コメンテーターを兼ねた前田和泉さんの司会の下、高柳聡子さんのご講演「女性たちが拓く文学の未来」、工藤順さんのご講演「たいしたことのないわたし(たち)がそれでもそれなりに文学と生きていくことの話」の後、福岡で活発な出版活動を展開されているゲストの藤枝大さんも交えて、活発なトークが繰り広げられたプレシンポジウムは、「言葉をつむぐ、言葉をつなぐ―今、ロシア文学と向き合うということ―」という題名の通り、登壇された皆さんがそれぞれに自分自身が2022年以降の状況下でロシア文学に取り組むことの意味を考え、語り合う場となりました。亀山先生の大賞受賞記念講演とともに、本来的に文学というもの、研究という営みが対象に対峙しつつも、これに対するみずからの関係や距離を自問しながら行われるものであることが鮮明に表れた、感動的な企画でした。
今回の大会では、国際枠で4名の方が参加、報告されました。新型コロナ・ウィルス禍によって中断していた国外との交流は、日本ロシア文学会においても昨年からしだいに再開しつつあります。武田昭文さんを長とする国際交流委員会の主導による国際交流支援制度もまた動き出していますので、会員の皆さんにはぜひご活用いただきたいと思います。
今回の大会から、従来からの若手報告者に対する旅費補助の他に、報告や司会ほかを行う大会参加者を対象にした託児補助も新たに始まっています。両補助制度は次回大会以降も継続されますので、該当する会員の皆さんはぜひご活用ください。
今大会が成功裏に終えられたことは、前田和泉さんを長とする大会組織委員会、寒河江光徳さんを長とする大会実行委員会、そして開催校の創価大学の教員・学生スタッフの皆さんによる周到な事前準備と当日のご尽力のおかげです。心よりの感謝と敬意を表します。
第75回定例総会・研究発表会は、2025年10月25日・26日の両日、東京大学駒場キャンパスで開催されます。プレシンポも実施される場合は、前日の24日夕刻の開催が見込まれます。次期大会の詳細につきましては、坂庭淳史さんを長とする次期大会組織委員会、鳥山祐介さんを長とする次期大会実行委員会の協議と理事会の承認を経て今後、学会ホームページや学会員MLで随時お知らせしていきますが、皆さんの積極的な参加とご報告をお待ちします。
大会第1日目に行われた総会において会則ほか多くの内規等の改定が承認され、直ちに発効したことは、2014年11月4日の学会員MLで既にお知らせしたところです。今回の改定の要点は、本学会が取り扱う研究範囲の定義をロシアの言語・文学・文化等の人文学に限定するのではなく、これを基点とするパースペクティヴに映るかぎりの分野や領域との協働の可能性へと開く記述に変更したこと、各種委員会の選出方法や任期を近年の実態に合わせ、できるだけ統一したかたちに変更したことの2点です。日本ロシア文学会は、これらの会則や諸規定に基づいて、活動を行っています。すべての規定が学会ホームページに掲載されていますので(https://yaar.jpn.org/?page_id=932)、学会員の皆さんは、必要な折に適宜ご参照ください。
人文学研究は今現在の状況を見据えるとともに、これまで蓄積されてきた言語・文学・文化的諸現象の考察を続けていかなければなりません。会員の皆さんのお手元には既に届いていることと思いますが、平松潤奈さんを長とする学会誌編集委員会のご尽力により、学会誌第56号が通常どおりのスケジュールで刊行されました。次号57号へのエントリーも既に始まっています。皆さんの意欲的な投稿を呼びかけます。また、2024年1月27日に実施された若手企画賞受賞のワークショップ「〈暴力〉から問う─19-20世紀ロシア文化における暴力表象の横断的検討─」(代表:田村太さん)をはじめとして、さまざまな研究会やイベントの開催が活性化しているのも喜ばしいことです。
本田晃子さんを長とする広報委員会のご尽力でリニューアルされた学会ホームページは、順調に機能しています。従来の学会員名簿に相当する学会員情報検索機能も運用が開始されました。ぜひご活用のうえ、ご意見ご要望、気が付いた点などを事務局までお寄せください(連絡先は学会ホームページ右欄をご覧ください)。機能の向上に活かしてまいります。
学会費や維持会費も、学会ホームページから納入が可能になっています。さまざまな役職を担当している会員の業務負担軽減に向けて、ご理解ご協力を改めてお願い申し上げます。
学会員の皆さまには、ぜひ学会ホームページや学会員MLに注意して、ご自分の研究に役立つ情報を取得していただきたいと思います。また、各種の企画や出版情報を広報委員会にお寄せいただき、積極的に学会員に共有してください。
この1年のあいだにもまた、日本のロシア語・文学・文化・思想とその関連分野の研究で活躍されてきた方々の訃報に接することが多かったのは、とても悲しいことです。改めて深い哀悼の意を表します。
その一方で、中堅若手の研究者の活躍が顕著になっていることには励まされます。今年度日本ロシア文学会学会賞ないし選考委員特別賞を受賞された安野直さん、堤縁華さん、高橋沙奈美さんのお三方には、受賞記念の録画講演をお願いしているところです。鴻野わか菜さんを委員長とする社会連携委員会編集の講演録画は、2024年度中には完成の見込みです。
また若手企画賞を受賞したワークショップ「時の脱臼―スラヴ・ユーラシアの文学・芸術における錯時性―」(代表:堤緑華さん)も、やはり2024年度中に開催されます。日本ロシア文学会では会員の皆さんの研究の発信に努めていますが、これらの企画についても、サイトアドレスや実施の詳細が確定次第、学会ホームページや学会員MLを通して周知する予定です。
2024年の総会をもって、秋山真一さんが事務局庶務会計を退任されました。秋山さんは4年間の任期中、学会ホームページの更新に重要な役割を果たされるとともに、入退会や出納の管理など、学会運営の最も根幹となる日常業務を担う重責を果たしてくださいました。また執行部・事務局内での話し合いにおける中庸かつ的確なご意見・ご提案によって、学会運営に大きく貢献されました。
後任を笹山啓さんにお願いし、副会長の前田和泉さん、坂庭淳史さん、事務局書記の北井聡子さんとともに、今後とも適切な学会運営に努めていく所存です。
日本ロシア文学会は、会則と諸内規に則りつつ、多くの会員の意見を受け、広範な議論に基づいて運営されるべきものです。これからも執行部・事務局内で意見や情報を交換し、理事会に諮りながら、喫緊あるいは長期的な問題に取り組んでまいりますが、会員の皆さまにも、事務局や所属支部にご意見や提言を積極的にお寄せいただくよう、お願いいたします。