2022年度日本ロシア文学会賞「受賞のことば」
古宮 路子(こみや みちこ)
【著書】
『オレーシャ『羨望』草稿研究――人物造形の軌跡』(成文社、2021年、240頁)
<プロフィール(2022年10月現在)>
2013年、Московский государственный университет им. М.В. Ломоносова修了。Кандидат филологических наук取得。2014年、東京大学大学院人文社会系研究科単位取得万期退学。2017年、博士(文学)号取得。埼玉大学非常勤講師などを経て、2021年より東京大学大学院人文社会系研究科助教。専門は20世紀ロシア文学。
<受賞のことば>
このたびは拙著に対して名誉ある賞をいただくことができ、大変光栄です。審査に関わられた先生方に深く感謝いたします。また、拙著は東京大学に提出した博士論文をもとに改稿したものです。執筆の過程で、指導教員の沼野充義先生をはじめとする多くの方々に大変お世話になりました。あらためて心よりお礼を申し上げます。
草稿研究は、日本のロシア文学研究においてはまだあまり定着しているとは言いがたい領域です。特に、昨今の世界情勢を受け、ロシアへの渡航は以前のようにいつでも自由にできるわけではなくなったため、アーカイヴ資料へのアクセスはますます困難になっています。しかし、日本ではフォルマリストとして知られるБ. トマシェフスキーやЮ. トィニャーノフらが道を切り拓いたテクストロギアの文学研究における重要性は、決して損なわれるものではありません。私もまた、オレーシャの肉筆原稿を初めて手にとった時の感動を忘れず、世界でただ1点のオリジナルが含みもつ情報量とそれを読み解く困難に向き合いつつ、これからもアーカイヴ研究や文学史研究を手がけていきたいと思います。
このたびはありがとうございました。
畔栁 千明(くろやなぎ ちあき)
【論文】「聖典の正教化 ─『東教宗鑑』(1860)と清朝中国のキリスト教」(『ロシア語ロシア文学研究』第53号、1-21頁)
<プロフィール(2022年10月現在)>
東京大学教養学部卒業、東京大学大学院総合文化研究科修士課程修了。2016年から同博士課程在学中。専門は露清関係史、ロシアを中心とする東西交渉史。
<受賞のことば>
拙論に対して過分な栄誉をいただき、ありがとうございます。査読をお引き受け下さった先生方、編集、選考の労をお取り下さった委員の先生方に心より御礼申し上げます。またこれまでご指導いただいたみなさまにこの場をお借りして感謝申し上げます。
18世紀から清朝の首都北京にあったロシアの宗教使節団における伝道の実態は、ロシアの公文書だけでは判然としません。拙論では19世紀半ばに作られた漢文の伝道文書を構成する、対清外交、カトリックやプロテスタント訳との関係、現地社会への適応などの要素に着目しましたが、なお分からないことばかりです。執筆者として思い入れはあったものの、どれだけの方に関心を持っていただけるか不安であったことは否めません。学会賞という形で評価をいただけたことは望外の喜びでした。
思えば、図書館を巡り、明治日本に輸入された漢文のカテキズムを探す中で、丁寧に手書きされた朱色の訓点を目にしたときの小さな驚きが、本研究を形にするきっかけでした。賞を励みに、先人のように目の前の文献に向き合いながら、地道に研究を重ねていきたいと考えています。